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~嘘~
6月8日、日曜日、午前6時、自室。
…朝、目覚めてもまだ興奮が収まらない。
まるで新しいおもちゃに飛びつく子供のようで、少し恥ずかしい。
もっとも、そのおかげで今朝は耳が痛くならずに済んだのだけど…。
いつもより少し早く起きたので、シャワーでも浴びようかな。
私は着替えを用意し、お風呂場のある1階へと降りていく。
「おはよう、友香里。」
「あ、お父さんおはよう…、珍しいね?こんなに早く起きてくるなんて。」
「まぁな、それより友香里、昨日はだいぶ遅かったようだが、
どこに行ってたんだ?奈々子ちゃんと遊んでたのか?」
ピピィーッ!!と、頭の中で警告音。
“件の館”の事は他言無用の約束だ、嘘を吐いた方がいいだろう。
けど、奈々子だったら父でもすぐに確認出来てしまうだろうから…、
「昨日は高島っちの所でお勉強しててね。
3か月分だったから時間掛かっちゃって、まだ1か月分も終わってないけどね。」
…いつもは聞かないのに、どうして隠し事があるときに限って聞いてくるかな?
「そうか…、まぁ、あまり遅くならないようにな。
この辺も、最近物騒になってきたからな。」
「あぁ、轢き逃げがあったらしいね…、いつだっけ?」
「先月の中旬あたりだったが…、まだ捕まってないからな。」
うまく話を逸らせたし、遅くなっても誤魔化せる言い訳が出来た…、ナイス私!!
「その事件って、お父さんの担当?」
「いや、死亡事故だから父さんじゃない…、もし父さんならとっくに捕まえてるさ。」
「はいはい、警部補殿は優秀でございますねぇ。」
実際、父は署内でもかなり優秀な方らしい。
…巣鴨警察署、交通安全課の警部補、それが父の職業だ。
警視庁にも友人がいて、父のアドバイスで事件が解決したこともあるらしい。
確か…、ナントカ澤、とか言う名前の人だったような、まぁ、会ったことは無いけど…。
「じゃあ、娘の住む町の安全はお父様に守ってもらいましょうかね。」
「おぅ、任せなさい。」
父と2人で、朝から仲良く笑いあう。
「じゃ、私シャワー浴びてくるから。」
父を横切ってお風呂場へと向かう私の背中を、父が見ているような気がした。
振り返っても父の姿は無かったけど、何となく後ろめたい気分になった…。
了
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