~序章の幕開け~

1/1
前へ
/10ページ
次へ

~序章の幕開け~

6月10日、17時。件の館、2階の休憩室内。 私は件と共に、次の作品に挑んでいる。 同日、1時間前…、 「友香里さん、先日の推理の確認が取れましたよ。」 「本当に!?で、どうだったの!?」 件がゆっくりと私に歩み寄り、私の肩に手を置いて薄く微笑んだ。 「“一縷の隙もない完璧な推理、賞賛に値する”との伝言を預かりました。 友香里さん、おめでとうございます。」 緊張の糸が切れ、私は力なくその場に座り込んだ。 「ふ~っ、勿体つけてくれちゃって…。」 ここまで待たされると、もはや疲労感しかない。 まぁ、1週間掛かるかもしれないとも言われてたから、早かった方だろう。 「大丈夫ですか、友香里さん。」 座り込んだ私に、件が手を差し伸ばす。 「ありがとう、件…。」 私は、その件の手を強く握り、思いっ切り引っ張る。 「うッ…!!」 その拍子に、件が受身も取れずに豪快に床に倒れこんだ。 「ゆ…、友香里さん…、ッ!?」 私の方を振り返った件の額を、ちょいっと小突いた。 「まぁ、それなりに面白かったよ。 ただ、もうちょっと早く成否が聞きたかったかな?」 「…申し訳ありません、こちらも色々と事情がありまして。」 「事情ねぇ…、まぁ、いいか、件が超怪しいのは最初からだしね。」 件の肩に手を掛けて、私はゆっくりと立ち上がる。 「…私、そんなに怪しいですかね?」 座り込んだままの件が、鼻の頭を掻きながらそう言った。 「さてと、次の作品を選ぶかな…、件、あなたも手伝ってよ?」 「…作品選びを、ですか?」 「どうせ暇でなんでしょ?1から10まで全部よ。 記憶力だけは良いみたいだから、メモ帳代わりに使ってあげる。」 今度は私が、件に手を差し伸べる。 「やれやれ、“おじさん”の次は“メモ帳”ですか、全く…。」 件は小言を言いながらも、優しく微笑み、私の手を取りゆっくりと立ち上がった。 了
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加