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~序章の幕開け~
6月10日、17時。件の館、2階の休憩室内。
私は件と共に、次の作品に挑んでいる。
同日、1時間前…、
「友香里さん、先日の推理の確認が取れましたよ。」
「本当に!?で、どうだったの!?」
件がゆっくりと私に歩み寄り、私の肩に手を置いて薄く微笑んだ。
「“一縷の隙もない完璧な推理、賞賛に値する”との伝言を預かりました。
友香里さん、おめでとうございます。」
緊張の糸が切れ、私は力なくその場に座り込んだ。
「ふ~っ、勿体つけてくれちゃって…。」
ここまで待たされると、もはや疲労感しかない。
まぁ、1週間掛かるかもしれないとも言われてたから、早かった方だろう。
「大丈夫ですか、友香里さん。」
座り込んだ私に、件が手を差し伸ばす。
「ありがとう、件…。」
私は、その件の手を強く握り、思いっ切り引っ張る。
「うッ…!!」
その拍子に、件が受身も取れずに豪快に床に倒れこんだ。
「ゆ…、友香里さん…、ッ!?」
私の方を振り返った件の額を、ちょいっと小突いた。
「まぁ、それなりに面白かったよ。
ただ、もうちょっと早く成否が聞きたかったかな?」
「…申し訳ありません、こちらも色々と事情がありまして。」
「事情ねぇ…、まぁ、いいか、件が超怪しいのは最初からだしね。」
件の肩に手を掛けて、私はゆっくりと立ち上がる。
「…私、そんなに怪しいですかね?」
座り込んだままの件が、鼻の頭を掻きながらそう言った。
「さてと、次の作品を選ぶかな…、件、あなたも手伝ってよ?」
「…作品選びを、ですか?」
「どうせ暇でなんでしょ?1から10まで全部よ。
記憶力だけは良いみたいだから、メモ帳代わりに使ってあげる。」
今度は私が、件に手を差し伸べる。
「やれやれ、“おじさん”の次は“メモ帳”ですか、全く…。」
件は小言を言いながらも、優しく微笑み、私の手を取りゆっくりと立ち上がった。
了
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