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~解の無い謎~
1人分の寂しい拍手の音が、館内を満たす。
「実に素晴らしい、見事な推理でしたよ。
まさか、これほどまでの逸材でいらしたとは。私、心の底から感服致しました。」
「それで、この推理は正解なの?」
推理した側からすれば、当然この質問に行き着くだろう。
だが、件はきょとんとした顔で私の方を見ている。
まるで、それを質問すること自体が、的外れであるかのように。
「いやいや件、聞いてる…?っていうか聞いてるのは私の方なんだけど。」
駄目だ、頭を使うとすぐ意味不明なことを口走ってしまう。
…とりあえず、甘いコーヒーを飲んで頭を落ち着かせる。
その間も、件は私の質問に答える風ではなく、
ただただ、私が落ち着くのを待っているようだった。
「ふぅ、ねぇ件…?私の推理は正解、不正解のどっちなの?」
「友香里さん、昨日貴女が自分で仰ったではありませんか。
この作品には“答えがない”と…。」
あぁ、言ったねぇ、確かに言ったよ…、言ったけど…。
でも…、え?そういう意味だったの…?
「えっとね、私は“作品の中では解答が出て来ない”って意味で言ったの。
つまり、あなたに私の推理を聞かせたら、答えを教えてくれると思ってた。
答えとまではいかなくても、推理の正否くらいって…。
まずそれは、正解?不正解?」
「いえ、不正解です。」
「…え?えっと、じゃあ“件はこの作品の解答を知っている”。
これは正解?不正解?」
「不正解、です…。」
…はい?
つまり、正解か不正解かすらも、本当の本当に分からないって事?
…というか、持ち主の件でさえ、マジで…、知らない?
「あはは…、」
「あの、友香里さん、どうかされましたか?」
私の中の何かが音を立てて、というより轟音と共に破裂した。
「“どうかされました?”じゃねえ~~~~~~~!!!!!!!!!!!!!
何じゃそりゃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!」
もう、疲労のせいで何に対しての怒りなのかも分からない。
了
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