~雨の日の彩り~

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~雨の日の彩り~

6月9日、正午、お昼休み。 天気予報では、今日は一日中強い雨が降るそうだ。 そのせいで、校舎の中では走り回る生徒の声や足音が、途切れる事なく響き渡る。 「はぁ、どうして他の人がお弁当食べてる時間帯に、はしゃぎまわるかな。 少しは、静かに出来ないもんかねぇ?」 「友香里…、何か年寄り臭いよ。」 奈々子は周りの騒音など意に介さず、ただ箸を進めていた。 「う~ん、田舎暮らしから戻ったばっかりだからかな?」 「あんまり露骨に嫌そうな顔してると、絡まれるかもよ?」 「上等、その間だけはきっとギャラリーも騒がないでしょうからね。」 「本当に、いい根性してるねぇ、友香里…。」 その間にも、生徒たちの騒ぎ声は、次第に大きくなっていく。 「何か…、この束縛された上での自由時間って息が詰まるのよね。」 「…友香里って、たま~に変なこと言い出すよね。 まぁ、間違ったことは言ってないんだけど。 きっと友香里は“無駄に”頭が良いから、馬鹿みたいなこと言い出すんだよ。」 「おほほほほ、失礼なことを言いますのね…。 万年、“全教科赤点”ギリギリの片桐さん!?」 奈々子はとにかく成績が悪い…、覚えも悪い。 テストの2ヶ月前から勉強を教えても、毎回惨敗。 教える私も手一杯になって、自分の勉強が出来ないくらい。 「苦手な科目でも平均以上の友香里と比べないでよ。」 「奈々子が自分で勉強してくれれば、私の成績はもっと上がるんですけど?」 家で多少はやってるんだけど、奈々子に教えるとすごく疲れる。 そのせいもあって、家での試験勉強はほとんど頭に入ってこない。 「そんな冷たい事言わないでよ~、親友の成績を上げるためでしょう?」 「その“親友”の成績下げといて、よく言うよ、本当。」 ちょっぴり涙目になった奈々子が、じっと私の方を見つめてくる。 「ま、私は自分のテストの成績なんかより、奈々子の方が大切だからね。」 なんて、くさい事を言ってしまったなぁと…、ちょっと赤面してしまう。 「私は、今度の期末テストの方が心配だよ!!」 「…奈々子はそっちの心配だけしてなさい。」 私と奈々子の笑い声もまた、他の生徒達の騒ぎ声に混ざり、 静寂の雨に包まれた校舎を、賑やかに彩るのだった。 了
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