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~父の休日~
6月9日、16時、自宅リビング。
「ただいま、お父さん。」
「あぁ、友香里、おかえり…、雨は大丈夫だったか?」
「いやぁ~、意外に風が強くて…。
結構濡れちゃったから私、先にシャワー浴びて来るね。」
…今日、父は非番でずっと家にいる。
晴れの日はジョギングなんかもやってるけど、この雨では流石に厳しいだろう。
父はソファーに腰掛け、数社分の新聞に目を通している。
家にいる時でも、刑事としての責務は決して怠らない。
「どう?何か気になる記事でもあった?」
「う~ん、“厚生労働大臣の元秘書の不正疑惑”…、贈収賄の記事だな。
“時効間際の殺人事件、急展開”、タレこみのお陰で捜査に進展…、か。
“アメリカの大物歌手が麻薬所持”、あぁ、若い頃はよく聞いてたなぁ…。
“破局したばかりの人気俳優に新恋人”、ここからはゴシップ記事ばかりだな。」
まぁ、一般大衆は汚職事件とか、殺人事件とかよりも、
アイドルや歌手のスキャンダルの方に興味津々って事か。
…今、奈々子の“友香里、年寄り臭~い”が聞こえた気がした。
そういう話に興味を持てる方が健全な若者って事かもね、って言ってるそばから…。
ちなみに…、今日は件の所には行かないつもりだ。
今日は父もいるし、何よりあの作品の成否が分からないと、
気になって、次の作品にも集中出来ないだろう。
奈々子に言われて思い出した、期末試験の勉強でもするつもりだ。
奈々子の面倒を見なくてもいいうちに、出来るとこまでやっておくか。
同日、午前7時。件の館、管理人室。
「…やはり、“あれ”がそうでしたか。」
「あぁ、君のお陰だよ、Mr. Okamizaki。」
「いえ、私ではありません、先日報告した…、」
「あぁ、例の“Ms. Emoto”か…、問題は無いのかね?」
「今のところ、特に変わった様子はありません。
恐らく、何も聞いてはいないでしょう。」
「“彼”にも報告はしたのだろう?」
「えぇ、ですが“彼”があの娘に話したりはしないでしょう。」
「そうだろうな…、だが、君も細心の注意払いたまえ。」
了
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