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雨が降り始めた。僕の前によく見知った女性が泣き崩れた。よく聞き取れないくらい高い声を喉から出し続けながら、彼女は泣いた。通行人はそんな彼女を興味津々な顔で通り過ぎていった。彼女はまだ泣いていた。
彼女は僕の恋人だった人で、初めて顔を会わせたときから三年ほどになる。笑顔の素敵な子で、僕はその笑顔に惚れたのだった。そして会話の絶えない日常を過ごし、少し前に結婚の約束をしたのだ。
しかしそれならばなぜ彼女は泣いているんだ?
そうだ、たった今、僕は彼女を捨てたのだ。
「どうしてなの、私が悪いの? 悪いなら、言ってよ。言ったなら、私は頑張ってそれを直すよ?」
俯いたまま、彼女は途切れ途切れにそう言った。僕はそれを見ていた。
いつの間にか、彼女も、通行人もいなくなり、ぐっしょりと濡れた僕だけが、アスファルトの道路の上に、泣きながら立っていた。
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