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それは、僕らのグループが夕飯のために火を起こしていた時だった。
その日の僕らは炊事班の一員である。
もう、何度目かになる夕食の用意をしていた。
と言っても、果物は視線を動かすたびに視界に入ったし、川には素手で捕まえられるほどの鈍い泳ぎしか出来ない、どこか異質な魚が泳いでいる。
下を見れば、火を起こせそうな枯木もたくさん落ちていたので、もっぱら料理をしながらの雑談を交えた話し合いのようなものだったが。
夕子は「せめてナイフか包丁があればなぁ」と、愚鈍な魚を拾った枝に刺しながら、ほっぺたを膨らましていた。
彼女は、変わらずに両サイドを結んだその髪型で一際幼く見えた。
美野里はにこやかに微笑みながら「塩も欲しいね」と言った。
「あー、確かに。お塩欲しい。大根おろしとお醤油も」
と騒ぐ夕子に「おいおい、無いものばかり言ってると、よけい欲しくなるじゃん」と亮介がやれやれと言った様子で首を振った。
ともかく、僕達は他のメンバーと果物を布にくるんで集めたり、魚を捕まえに小川に入ったりと言う、そんなのん気なことをしながらのんびり過ごしていた。
食事の支度はすぐに済み、後は探索隊の帰りを待つばかりである。
炊事班のほかのグループも交えて談笑しながら、僕達はだんだんと沈んでいく夕日を眺めていた。
「ごめん、ちょっと席はずすね、ちょっと」と、夕子が立ち上がったのは、そんなときだった。
亮介が「何? うんこ?」とデリカシーの無い発言をして、夕子が「違うよ! おしっこだよ!」と叫んだ。
一瞬の間の後、夕子は顔を赤くしながら「ち、ちが……もうやだ!」と叫びながら走ってどこかへ行ってしまった。
美野里は「ばか」と言いながら亮介の頭を小突く。
炊事班で一緒になった他のグループの佐藤と言う名前の男が笑う。
「いやいや、亮介君。ちょっとまずかったね。ちょっとさ。でも、今の彼女には申し訳ないけど、ちょっと面白かったよ」
佐藤は、確か恋人と参加しているプレイヤーだ。
どちらも探索チームに参加している。
ただ、今日はその恋人の姿を見ていない。
昨日の晩、佐藤と大喧嘩をやらかしていて、気がつくと炊事当番にもかかわらず探索チームにくっついていってしまったと言う話だ。
亮介が「まぁ、女の子って色々繊細なんですね」と言った。
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