Desire

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探索チームが帰ってきたのは、その時だった。 日はもう、沈みかけていた。 空は紫色に近い色合いで、すでに夜と言って良いほどの暗さだった。 佐藤が「遅かったですね」と、言いながら近づき立ち止まる。 木の影が夕日を遮ってしまい、少し暗い。 何かあったんですか? と言う佐藤の声が聞こえている。 「何もないよ、なぁ」と、帰ってきた男達がなにやら言い合っている。 戻ってきたのは全員男のようだ。 薄暗くても、人数やシルエットでわかる。 おかしい。 いや、当番で言えば、その日の探索チームは全員男だったのだけれど、今日は違うはずだ。 佐藤の彼女がいない。 嫌な予感を僕が感じたのも無理は無い。 「あの、俺のツレが今日、一緒に行ってたと思うんだけど」 そう質問した佐藤に男は何も答えず、スッと何かを持ち上げた。 手にしているのは、先の尖った長い木の枝で、まるで槍だった。 先が塗料を塗ったかのように黒く変色している。 黒? と僕は思った。 だが、次の瞬間、木の陰から一瞬の夕日を浴びたそれは、次の瞬間には赤い色に変わっていた。 その色と血液を連想させるのに、そんなに時間は必要ではなかった。 佐藤が地面に崩れ落ちる。 そのまま先ほど調理した魚のように、ビクビクと跳ね、まったく動かなくなった。 刺した? 薄暗くてよく見えない。音もしなかった。 佐藤はピクリとも動かない。 「お前の彼女さ、あんまり抵抗するから殺しちゃった。ごめんね」 男が、佐藤を足で踏みつけ、笑いながらそう言った。 逃げろ! と亮介の声がその場に放たれた。 混乱している暇は無い。 僕と美野里は弾かれたように走り出す。 「逃がすな! 捕まえろ! 男は殺せ!」 佐藤を刺した男がそう叫んでいる。 方角なんて知りはしない。 どこをどう走ったかもわからない。 ただ、がむしゃらに走った。 胸が苦しくなり、足が痛み出す。 どこかで男の断末魔が叫ばれた。 それが亮介の声でないことを少しだけ願いながら、僕は自分がこれ以上走ることが出来ないと判断した。 スタミナ切れ。 それに、走って物音を立てた方が危険だ。 僕は、茂みの中に身を潜ませた。 落ち着け、落ち着けと、何度も自分に言い聞かせながら。 もう、怖くて仕方が無かった。 そして、身を隠してからおそらく数分後、夕子の悲鳴が聞こえた。 僕の隠れている茂みのすぐそばで。
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