Desire

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夜が明けた。 男達はもはや死の間際に陥った夕子を見捨てたらしかった。 手当ても面倒だと考えたのだろう、けだるい声を出しながらどこかへ消えた。 僕はそれでも、すぐにそこから外に出ることが出来なかった。 奴らがまた戻ってくるかもしれない。 それだけが怖かった。 茂みを出れた頃には昼近くになっていた。 僕が夕子を確認したときには、全てが遅かった。 彼女はただ乱暴されただけでなく、半端じゃない暴力にもさらされていた。 全身にどす黒く変色するほど殴られた痕があり、口から血が流れていた。 僕は彼女の手にふれた。 小さな彼女の身体は、すでに硬直しかかっていた。 冷たい僅かな体温を身体に残し、剥ぎ取られた衣服が散乱する地面に横たわり、その人生を終えていたのだ。 「夕子、ごめん。ごめんね」 涙が知らず知らずのうちに溢れた。 嫌いなはずだった。 甘えてばかりで、人に頼りすぎていて、面倒なことからは逃げて人に押し付ける夕子が大嫌いだった。 だが、無邪気で、将来の夢はお嫁さんと言っていた夕子を思い出すと、何故か悲しくて仕方が無かったのだ。 そのままどれだけそうしていたのだろうか。 彼女の身体が光の粒子のようなものに変わりながら消えたのは、それから数十分後のことだった。 墓を作る必要が無いとでも言うように、そこには横たわった彼女の跡だけが地面に残された。 この世界で死んだら、現実世界の身体はどうなるのだろうと、やはり気になった。 目が覚めたようにして、現実世界で目覚めたりするのだろうか。 いや、それは楽観視しすぎている。 もし、ここにいるのが精神なら、ここでの死は精神の死になるのではないか。 だとしたら、身体の方も朽ちて、死んでしまうのではないか。 夕子が誰かのお嫁さんになることは、二度と無いのではないか。 誰であっても、ここで死ねば未来が消えるかもしれない。 そんなことを考えながら、僕は立ち上がった。
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