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「お前、やっぱり女じゃねーかよ」
と、男は言う。
僕の体をまさぐりながら、ニヤニヤと笑っている。
「僕にさわるな」と、僕は言ったが、どうやら止める気はないらしい。
「何が僕だよ? お前さ、男みたいな格好して、短い髪でさ、馬鹿じゃないの? キモいよ、マジで。もったいねーな。顔は美人なのによ」
男は僕の服の中に手を差し込み、僕の、今まで布を巻いて隠していた、膨らんだ胸の先を、指の腹で撫でる。
男の体臭が汗のにおいとともに、僕の鼻をつく。
「やめて、さ、さわらないで」
と、僕は言った。
声が勝手に震えてしまったことに気づくと、ああ、ダメだと、僕は思った。
昔、起きた事件。
数人の男達によって乱暴されたときの記憶が甦って来た。
下校途中に突然車に連れ込まれ、そして……
泣いても叫んでも、あの男達は止めてくれなかった。
数日間、ずっと男達のおもちゃにされ続けて、警察の手によって開放されたときには、もう、遅かった。
もう、女として生きることが出来なくなっていた。
男の性の対象になりたくない。
自分が男であったなら良かったと、強く思った。
男でありたかった。
自分が男ならと、願った。
ある日、僕は、自分で髪を短く刈り、今まで好んで着用していたスカートの類を全て処分した。
自分はもう、弱い女を辞めたのだ。
自分は男なのだと、強く思い込んだ。
そうすることで、なんとか部屋の外に出ることが出来た。
高校は入学したばかりであったが、制服を着るのが嫌ですぐに辞めてしまった。
毎日部屋に引きこもり、何ヶ月も『僕は男だ』と、念じながら過ごした。
自分を僕といい始めた。
そんな僕を、僕の両親は心配し気を使ってくれてはいたが、理解してはくれなかった。
でも、それでも僕は、これ以外に自分が生きる術を見つけることが出来なかったのだ。
頭の中にかかりそうになる絶望の靄。
今、再び男が服に手をかけて来ている。
男の唇が自分の肌に触れる。
僕が心に覚えた苦しさとともに息を荒げると、男は興奮しながら自分の服を脱ぎだした。
その時、僕は気を失いそうになりながらも、地面に転がっていた木の枝に気づく。
さっきは武器になりそうにもないと思った短い木の枝。
尖った木の枝。
僕は身悶えながらそれに手を伸ばした。
指の先がそれに触れる。
ああ、そうだ。
今度は僕が突きたてる番だ。
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