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Desire
あの抽選に当たった僕らが、そのゲームのテストプレイに参加したのは不幸と言うよりない。
会場に集められた三十人からなる人数の誰もが、こんなことに巻き込まれるとは思ってもいなかっただろう。
一緒に当選した僕の友達も、新しいそのゲームにわくわくと胸を躍らせていただけだった。
僕らは、広めの会議室で説明会を受けた後、それぞれ別室に連れて行かれ、頭に顔まですっぽりと隠れてしまうようなヘルメットをかぶらされた。
手にはごつごつとした器具でデコレーションされた手袋。
座り心地にどことなく不快さを感じさせる椅子。
しかし、ゲーム画面を映し出すディスプレイも、キャラクターを操作するコントローラーも、そこには無かった。
そう、これはただのゲームではない。
コンピューターによって作られた仮想世界を、自分の身体で体感すると言うまったく新しいゲームなのだ。
と言っても、それがどう言うことなのか、詳しいことを僕は理解してなかった。
説明会で神経の接続だとか、少し怖い話をしていた気もするけれど、安全テストではなく、アンケートを主体にした一般募集だったので、まぁ健康に害があるとかは無いのだろう。
そう、これは民間を対象としたテストプレイだ。
このゲームが実際に市場に出るのは何年先なのか、値段がどのくらいで発売されるかは検討もつかない。
ただ、自分では手が出ないほど高価なものになるだろうと言うのは簡単に予想できた。
なんで僕達みたいな一般人を対象としたテストプレイをするのかなんて、僕は知らない。
ただ、もしかすると二度とお目にかかれないかもしれないそれに触ることが出来ると言うことはわかる。
実際に一日遊んで、アンケートに答えるだけだ。
それだけのことでも、今日一日かけてじっくり楽しんでやろう。
その時思ったのはたったそれだけだった。
それだけを思いながら、誰もがヘルメットに閉ざされた暗い視界の中、機械の稼動する音を聞いたんだと思う。
今まで聴いたことの無い音。
世界を変える転換器と言うものがあるのなら、きっとああいう音がするんだろうなと、そう思う。
それから数秒して、いつの間にか目をつぶっていたことに気づく。
目を閉じた記憶はない。
ただ、目を開こうと意識しなければ、絶対にまぶたが持ち上がらないなと言うような、そんな感覚が存在していた。
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