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あかねは探索チームに参加しなかった。
美野里が帰ってきたのは翌日の朝で「残るって。しばらくは落ち着かないだろうから、しばらく一人にさせてあげて」と僕らに語った。
この状況にさせたのは亮介だったが、あかねを一人にすることに反対したのも亮介だった。
美野里はそんな亮介に、「心配なんでしょう? わかるよ。でも、探索に参加しない他の人のところにお願いしてきたから」と言った。
結果、亮介が引き下がり、あかねは残ることになった。
もちろん前夜の意見の食い違いもあるが、もともと病弱だったあかねはその身体機能までもがこの世界にフィードバックされていて、どちらにせよ探検には参加出来ないだろうと言うそんな判断もあった。
あかねはスタート地点で待機組みと称されたメンバーとともに残る。
出発の日、僕は物陰に隠れて僕らの方を見ていた長い髪の女の子を発見した。
あかねだ。
僕は誰にもそのことを教えない。
声もかけない。
あかねは自分から出てくるべきなのだ。
とりあえず、今は放っておこう。
とにかく、ゲーム開始時にいた地点をスタート地点として、探索チームは出発した。
現実世界に帰る何かを求めて。
だが、出発して数日後。
そう、たった数日で、その探索は終わった。
それは帰り道が分かったとか、そう言う発見で終わったわけでもなければ、あきらめや絶望で終わったわけでもなかった。
大航海時代の船長達は、上陸した未開の地で、不満だらけになった乗組員を抑えられなかったと聴いたことがある。
真実かどうかは知らない。
ただ、ようするにそう言うことが起きたのだ。
抑制されていた人間の欲。
現状として、食べ物はどこにいてもすぐに手に入る。
水源はいたるところに存在していたし、果物の実っている木も同様である。
悪天候らしい悪天候も無く、風邪を引いている人間が一人も現れなかったことから、どうやら病気になることも無いようだ。
体躯や生理現象さえ再現されたリアルすぎる世界。
男と女。
腕力。
人は争うように出来た生き物なのだろうか。
僕は信じたくない。
ただ、それは起きてしまい、走り出してしまったのだ。
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