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レンガ造りの壁面には無数の蔦が這い、周りは荒れ果て草が茫々と生い茂っている。
昼間ならいざ知れず、夜は一層不気味さを醸し出している。
―嘘っ、私はどうしてこんなところに?
実は彼女はこの洋館に見覚えがあった。
彼女が住んでいる街の外れにある有名な廃墟でもう長いこと人が住み着いていないといわれる場所だ。
しかし彼女の家からは遠く、いくら高校生と言えど歩いて行くような場所ではない。
彼女は奇妙な現状に記憶を巡らせた。
「ちょっと待って整理しよう。私は塾が終わって家の近くを歩いてたはずよね??」
そう、家までの近道をしたことは覚えている。
そして黒猫を追いかけたことも。
「いやいや、黒猫追いかけてもこんな遠くには来れるはずないもの」
うーん、と頭を悩ませた。
そしてふとその洋館を見上げた。
「こう見ると立派なお屋敷よね。誰も住んでないなんてもったいない」
夜だから不気味さはあるものの、本当に素敵な洋館なのだ。
幼い頃はこんな洋館に住んでみたいと子供ながらに憧れたものだ。
しかし今はしみじみと思いふけっている場合ではない。
「…っていけない!早く帰らなきゃっ!!」
時計の針はすでに23時を過ぎていた。
彼女はハッと我に返ると慌てて踵を返そうとした。
だが、目の前の景色をみて唖然とする。
―道が…ない…?
どこを見回しても道がないのだ。
その代わりに目の前には深い森が見渡す限り広がっている。
「嘘っ!?」
少女はビビりながらも意を決して森の中へ足を踏み入れた。
じっとしていても何の解決にもならなかったし、時間は刻一刻と過ぎていくだけだ。
早く家に帰らなければと気持ちが急いていた。
しかし、行けども行けども森から抜け出すことはできず、結局は同じところに戻ってきてしまう。
堂々巡りってやつだ。
「一体どうなってるの!?」
訳が分からなくて今にも泣きたい気分になった。
こんな暗い夜に廃墟の前で1人迷子になるなんて心細いったらありゃしない。
どうしたら家に帰れるのだろう。
あちこち歩いてみたけれど一向に元の道には戻れなかったし、携帯は圏外になっていてどこにも繋がらない。
それからどれくらい歩いたのか。歩き疲れて足も痛くなってきた。
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