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そして終いには途方に暮れ、泣きそうになりながら蹲ってしまった。
―こんなことなら近道なんかしなきゃよかった。
そしてふと空を見上げると木々の合間に赤い月が浮かんでいた。
「月が赤い…」
どうやら皆既月食はすでに大局面を迎えていたようだ。
銀色に輝いていた月は地球の影と重なり赤く染まり、その輝きを潜めている。
時計の針はまもなく0時。
「どうしたらいいの…」
そんな時、突然辺りが明るくなり違和感を覚える。
だって近くに街灯なんてなかったし、空に浮かぶ月は輝きを潜めたままだ。
それなのに明かりなんて…
不審に思いながらキョロキョロと見渡すと洋館に明かりが灯っているのが見えた。
誰も住んでいないはずの洋館に。
それを見た瞬間、背筋がゾッと凍りつく。
―えっ、嘘でしょ…
そして追い討ちをかけるように堅く閉ざされていた門がギィィーと嫌な音を立てて開いた。
まるで彼女を屋敷へと誘うかのように。
―ここでこうしててもしょうがないし、一か八か、入ってみる…?
彼女はごくりと息をのみ、覚悟を決めると屋敷へと足を向け、重い扉を開いた。
するとそこは外装からは想像もできないほど豪華絢爛な作りになっていて、美味しそうなパンの匂いがほのかに漂っていた。
「なにこれ…」
廃墟と思いこんでいた洋館にはどうやら人が住んでいたらしい。
それは衝撃の事実だった。
「すいませーん!!」
彼女はまだ見ぬ住人を求めて声を張り上げた。
帰り道を教えてもらおうと思ったのだ。
だが、一方でどんな人が住んでいるのだろうという純粋な興味もあったけれど。
カツカツと足音に気づいて辺りを見回すと赤い絨毯のひかれた螺旋階段に1人の青年が姿を現した。
透き通るような白肌に淡い茶金の髪、今の月と同じ赤い瞳をした美しい青年だった。
―王子様みたい。
少女は思わずぼーっと見惚れてしまう。
「ようこそ、我が屋敷へ。待っていた」
「あっ。あの!勝手にお邪魔してすいません。私、その…」
彼女がどう説明しようか迷っていると彼はそんなことどうでもいいとばかりに首を横に振った。
そして微笑みをたたえると少女に近づき、愛おしげにそっと手をのばす。
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