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驚きもせず、疑いもせず、まるで最初から少女が来ることを知っていたかのようだった。
そのまま彼は彼女の頬に触れ、唐突に唇を奪った。
「!!」
少女は目を見開き、思わず青年を突き飛ばした。
「ちょっと、何するのよ!!」
彼女の大きな瞳が戸惑いに揺れていた。
耳を真っ赤に染めて、何が起こったのかいまいち飲みこめていないような顔をしている。
―信じられない!突然キス…するなんて!!
少女は複雑な表情を浮かべ、自分の唇に手を当てた。
―ファーストキス、だったのに。
美しいからと見とれたのが間違いだったのかもしれない。
驚きと苛立ち、いろいろな感情が交差していて自分でもよくわからない。
だが、そんな彼女の戸惑いを知ってか知らずか青年はぬけぬけと言った。
「本当はこうして欲しかったんだろ?」
「は?」
「お前の顔がそう言ってる」
そういって青年はニヒルな笑いを浮かべる。
「そんなわけないでしょ!!馬鹿にしないで!!!!」
まるで少女が望んだかのような口ぶりと俺様な態度にムカムカと腹が立って、思わずプツンとキレた。
―なんて失礼な人!
一体何様のつもりなのか。
いくら美しいからといって何をしても許されると思ったら大間違いだ。
それに物事には順序、というものがある。
少女は頭に血が上って当初の目的などすっかり忘れ去っていた。
―こんなところ、一秒でもいたくない!
彼女は踵を返し、扉に手をかける。
しかし、扉にはすでに鍵がかけられていて必死に押したり引いたりしてみても扉はビクともしなかった。
―あれっ、開かない!?まさか鍵がかかってるの!!?
少女は振り返って青年を睨みつけた。
すると彼はほくそ笑んで両腕を組み、こちらをじっと見つめていた。
「逃がすと思ったのか?」
物騒な物言いに少女はぎくりと肩を震わせる。
『逃がす』、それはまるで獲物を捕まえたかのような言い方だった。
背中を冷や汗が伝い、血の気が引いていく。
―もしかしたら自分はとんでもないところに迷い込んでしまったのかもしれない。
射竦めるような彼の視線に動けなくなる。
そして青年の腕が少女の体をすっぽりと包みこむように絡みつく。
「放してよっ!」
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