6人が本棚に入れています
本棚に追加
「魔之王さんの恋人になりたい」
世界は一瞬、目の眩む光に覆われ、次に目を開けたときに私は魔之王の隣にいた。広い背中に、大きな手、優しい目。思わずため息がもれた。父の面影を手に入れることができたのだ。
ダルミャルが後ろで呆れたようなため息にまぜて何かを言っているようだけど聞こえない、フリをした。
“そんなやり方でいいのかね、チミィ”
答えはずっとずっと前からでてる。だから、考えないんだ。
まだ試合の熱気冷めない建物から、手を繋いで外へと出る。
頭上には真っ赤な月が見える。ここが自分のいた世界でないことだけは、はっきりとわかる。それでもとなりに魔之王がいることが嬉しかった。
「ずっとここにいられる訳じゃないんだよ、チミィ」
それだって、わかっている。けれど、自身の手で勝ち取った“魔之王”を手放すことはできない。
「ずっとずっと、一緒にいてくださいね?」
ふっくらたくましい腕に絡み付き頬を刷り寄せた。
「魔之王さん、愛しています」
「俺は……」
「魔之王さんも、私のこと愛してくれますよね?」
とまどう魔之王に、とびきりの笑顔を向けた。気は強いけれど優しいこの人は、
「愛しているよ」
そういってくれると信じて。
最初のコメントを投稿しよう!