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美琴は鬱陶しそうにそれを見上げた。誰が考えたのか、今の美琴には少しも為にならない言葉だった
こんなモノに心動かされる人がいるのだろうかと首だけ回して周りを確認する。制服を着た女子がキャーキャーと騒いでいた
別にあのキャッチコピーの影響を受けたわけではなく、騒いでいる女の子たちの隣には一様に男子の姿があった
見ているのも恥ずかしくなるくらい、ベッタリと肩を寄せ合っている。この中の何組が、今日生まれたカップルなのだろう
眺めていてうんざりした美琴は今度こそ持っていたチョコを戻して踵を返し
「買わないのか、美琴」
「―――っ!!?」
気配もなく、それが当たり前のようにきょとんとした顔で真後ろに立っている正明を見て、一瞬心臓が止まりかけた
「あ、あんた…! 何でここにいるのよっ!!」
商品の陳列する棚を背にしている為、一歩下がる事も出来ず少年を指差して叫ぶ美琴の声は店内に響き渡る
何事かと周りの学生の視線が向けられた。広い店ではないがバレンタイン当日なのが災いして店内には二十人以上の学生がいるその全てが美琴と正明に集まっていた
「あ……えっと……そのぉ……」
視線をあちこちに向け言葉を探し
「あ、あははー……。―――ご、ごめんなさいっ」
勢いよく頭を深く下げて謝罪した。何かが起きたわけではないと知って、店内の客の興味は商品へと戻っていき、安堵のため息を吐いた美琴は目の前にいる正明を睨んだ
それでも正明は首を傾げている
彼女の怒りの意味も分からず、いつもと同じ顔で美琴を見ていた
その変わらない表情が今は何だか癪に障り小さな声で問い詰める
「アンタこんなとこで何してんのよ!?」
「何かしてたってわけじゃねえよ。ただブラブラと店の中とか見て歩いてただけだ」
「アンタの場合、ブラブラーって言うよりフラフラーって感じだけど。……つまりウィンドウショッピングしてたのね」
「まあそんなとこだ」
「……はぁ」
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