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言うだけ言って美琴はずかずかと歩き店を後にする
何か気に障る事をしてしまったのかと焦燥に駆られながら、正明は少女の背中を追いかけた
近づく気配に気づいて美琴は歩調を緩める
気にならないくらい狭く
気付かないくらい小さく
追いかけてくる少年がすぐに横に並べるように
デパートのフロアに出ると美琴の隣に正明が並び歩いた。語らうわけでもなく、普段と変わらない平穏を感じさせる穏やかな顔でただ隣を歩いている
その正明がちょっと可笑しくて、美琴は悪戯してやりたくなった
「ねぇ、それ食べてみてくれない?」
進路を塞ぐように前に出て美琴は言う
「あ? 今かよ?」
「そう、今」
別に困る事ではなく、袋を開いて中から小さなチョコを一つ取り出した
ガナッシュという名前のチョコだが、形は所々崩れていて正規品でないとすぐに分かる出来だ
(手作り……だよな?)
ココアパウダーを塗しているのだろうかと思いながら、チョコを口に運ぶ
ザリッ、とチョコではあり得ない音がした
「っ!?」
途端、口に広がる苦みに目を大きく見開く
その食感は炭を食べている様だった。チョコの甘さがあるのが唯一の救いである
煎餅みたいに硬いチョコはある意味新触感だ
しかし不味いというわけではない。カカオが多すぎるだけで、手作りにしては良く出来たものと言える
カカオの濃度が異常に高くなければ
「どう? 美味しい?」
「お、おう。美味ひぞ?」
「―――プッ!」
口内を支配する苦みで言葉が嘘だと分かるくらいに呂律が回っていない正明に美琴は思わず吹き出してしまった
失敗したと分かっていて食べさせたが、ここまで上手くいった上に、まさか無理してまで笑顔を作るなんて、本当に彼らしくて笑ってしまう
「フッ、クククククっ! 駄目だ、マジで可笑しいっ!」
「あ゙あ?! ちょ……何で笑う?」
どうして笑われているのか分からず正明は困惑する
折角手作りでくれたのに不味いなんて言えないから誤魔化しただけなのに、まさか笑われるなんて少しも思わなかった
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