二軒目

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. 俺らの親父は、犯罪を犯した。 それも、殺人を。 と、世間ではそうことになっている。 あれは確か、俺が小学生で、咲が幼稚園児の頃だった。 親父は、濡れ衣を被せられ、警察に連行された。 理由は、当時、世間を騒がせた殺人事件だった。 かなりひどい事件で、何の罪もない子供や女性、老人が、たくさんたくさん殺された。 多分、親父のことを抜きにしても、覚えていただろう。 そんな猟奇的な事件が起こって数日経ったある日、その日の被害者の第一発見者が、事件現場で親父の姿を見たらしい。 が、俺はそれは嘘だと思っている。 というか絶対に嘘だ。 だって、その時俺の親父は、俺たち家族と一緒にいたのだ。 久々の休みだ、と、子供のようにはしゃいでいたのだ。 大好きな野球をテレビで見て、プロレスごっこをして、黙れバカ親子がと言ってお袋に軽く殴られて、暖かいご飯を四人で食べて、一緒に風呂に入って、笑って笑って笑いまくって―― ――幸せな時を、家族で過ごしていたのだ。 それなのに、警察は第一発見者の証言を信じた。 俺たちがどんなに抗議しても、家族の証言じゃアリバイは成立しない、とかなんとか言って。 そして、親父は連れていかれ、警察はそれが冤罪だということにも気づかず、あの世に……。 そこまで考えて、俺は自分の視界が歪んでいることに初めて気付き、目をこすった。 ワイシャツの袖に、涙でできた染みがあった。 俺はばあさん家の玄関から離れ、咲のもとに戻った。
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