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で、話は戻る。
俺は今、隣の田口さん家にお邪魔してるわけだが…。
「おじさん!!
とりっくおあとりーと!!」
「あぁ?
お菓子をくれなきゃイタズラするぞ、だと?
そんなガキに食わせる菓子はねえよ。
帰れ」
家の主は、うざったそうに手をヒラヒラさせ、俺らを家に帰そうとしている。
まあ、無理もない。
彼は子供が嫌いなのだ。
昔、自分でそう言っていたような気がする。
だが田口さんよ、そんなふうにあしらっても俺の妹には通用しないぞ。
「えー?
じゃーあ、イタズラしないからお菓子ちょうだい!!」
むしろ、やる気がエスカレートするだけだ。
「テメーらに菓子やっても、俺にはなんのメリットもねえじゃねえか」
「メリットってなーに?
シャンプー?」
「ちげーよ、利益だ利益」
「リエキってどんな液?」
可哀想な田口さん。
顔にでっかく
『めんどくせぇ…』
って書いてあるし。
マンガだったらこめかみに血管浮いてるな。
そんなことをぼんやり考えていると、田口さんと目があった。
「このガキ、家に帰せ」
「え…」
「うるさくて仕方ねえんだよ」
そう言うと、田口さんは家の中に引っ込んでしまった。
慌ててドアに飛び付く咲。
「あ、ちょ…おじさん!!
おじさんってば!!
お菓子ちょうだいよ!!
おじさーん!!」
咲は、何度も何度もドアを叩いた。
ドンドンドン、と、太鼓でも叩くような強さで。
借金取り並の執念深さだ。
うるさいぞ、と言おうと口を開いたとき、
「うるせえ」
「へぶっ!?」
ドアがいきなり開いた。
咲が、顔を思い切りぶつける。
オレンジ色っぽい光に満たされている廊下に立っている田口さんは、右手に何かを持っていた。
「やる」
差し出されたのは、青い包みのアメだった。
きちんと人数分――二つある。
「それ食ってさっさと帰れ」
「おじさん…!!」
パアッと顔を輝かせた咲が、アメを受け取り、キャーキャーと嬉しそうにはしゃいでいる。
さっそく包み紙を取り除き、ピンク色のアメを口に放り込む我が妹。
幸せそうに、頬が緩んでいた。
ふと、微笑ましいものでも見るように目を細めている田口さんの横顔が、チラリと見えた。
…ウソはいけないな、田口さん。
あんた、子供嫌いじゃないじゃん。
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