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――
田口さんの家から離れた、俺たち菓子ねだり隊(隊員二名)は、そこから歩いて一、二分くらいのところにある安本ばあさんの家にいた。
咲が、音符マークの描かれた呼び鈴を鳴らす。
ピンポーン、というありきたりなチャイム音が、小さく俺の耳に届いた。
正直、ここのばあさんには出てきてほしくない。
だって――
「あらあらあら、やっと来たわね咲ちゃん!!
おばちゃん待ちくたびれたんだから~。
元気してたっ?」
…この通り、かなりうるさくて苦手だから。
いや、うるさいだけなら俺もまだ我慢できる。
問題なのは、彼女の俺に対する態度だ。
早く帰りたいな、と思いながらいつものようにぼんやりたたずんでいると、ばあさんと目があった。
スッ、とさりげなく目をそらす俺。
そんな俺に構わず、ばあさんは咲の傍らにしゃがんだ。
そして、その小さな耳に口を寄せる。
「咲ちゃん、あのお兄ちゃんはだぁれ?」
ばあさん、それ耳打ちの意味ないから。
丸聞こえだから。
つーかわざとかそれ。
だとしたら殴るぞ。
拳を震わせている俺に気づかない咲は、首をかしげながら聞き返した。
「おばさん、覚えてないの?
私のお兄ちゃんだよ」
「咲ちゃんの?
…………………ああっ!!
そういえばいたねぇ。
咲ちゃんと違って、出来の悪いお兄ちゃんが」
確実に嫌がらせだなこのクソババァ。
だがな、ばあさんよ。
俺に挑発は効かないぞ。
殴りたいけど我慢しちゃうからな。
妹の目の前だもの。
教育上よろしくないものは見せないのが常識。
暴力的な女はお袋だけで十分だ。
俺は、ひたすらそっぽを向いて、二人の会話を無視した。
特に、ばあさんの発言には耳を傾けないよう努める。
「出来の悪いって、どういうこと?」
「性格が悪いってことよ」
…さすがにここまで言われると腹が立つ。
ああ、短気な俺ってお手本にむいてない。
言い返してやろうか、と思い一歩前に出ようとすると、
「お兄ちゃんは性格悪くないもんっ!!」
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