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珍しく、咲が叫んでいた。
パンパンに膨んだ頬は、まるでビックリしたハリセンボンのよう。
顔は真っ赤で、とても失礼だが、茹でたタコのように鮮やかな色をしている。
「咲…?」
「お兄ちゃんは性格悪くないもん!!
優しいし、勉強教えてくれるし、一緒に寝てくれるし、お風呂だって入ってくれるんだから!!
悪いところなんて、ないんだから!!
お兄ちゃんをバカにするなっ!!」
…咲ちゃん、フォローしてくれるのはスゴく嬉しいよ。
涙が出そうだ。
でもね、年が年なだけに一歩間違えたら変態になりかねねえぞ俺。
一緒に寝たことも風呂入ったこともないからな、一度も。
勘違いさせるな妹よ、ばあさんの目が痛いじゃないか。
ああ、叫びてぇ…。
『俺はロリコンなんかじゃねえっ!!』
って叫びてぇ…。
無理だけど。
いまだにわめき散らしている咲の頭にぽんと手を置き、無理やりばあさんに頭を下げさせる。
「すんません、ば…安本さん。
こいつ、ハロウィンに浮かれて興奮してて…。
あんま、強く責めないでください。
うるさいでしょうけど、せっかくのハロウィンですから」
そう言って、俺も頭を下げる。
こんなばあさんに謝るのは不本意だが、お袋にも近所付き合いっつーもんがある。
ここで反発したら、きっとお袋は困るだろう。
それは、ちょっと嫌だった。
横暴でも、凶暴でも、強引でも、俺の母親だから。
ちらりと横に目をやると、咲が目に涙をためて唇を噛み締めていた。
我慢しろ、と小さく呟く。
「…いいわよ、別に」
顔を上げると、不機嫌そうに顔をしかめたばあさんが、腕にひっかけていたバスケットを差し出してきた。
「全部あげるから、もう二度と来ないでちょうだい」
そう言って、ばあさんは俺たちに背を向けた。
ドアを閉める直前に、ばあさんの吐き捨てるような声がした。
『兄が兄なら、妹も妹ね』と――
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