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「……では、この六名で構いませんね?」
わざと部屋に明かりが入らない様にしているのか、薄暗い部屋の中で一人の男がそう呟いた。
男が手を置いている机の上には顔写真が貼られている紙が数枚置かれている。
窓際に立っている少し老けた男は静かに窓の外を見ながらただ一言、あぁ。とだけ呟いた。
「……では、私はこれを提出してきます」
そう言って男は机の上に置かれていた紙をまとめて封筒に入れるとそのまま部屋を出て行く。
ドアを閉めた音だけがやけに大きく響き、残された男は窓の外に広がる景色を見たまま一度も視線を変える事はなかった。
窓の外では授業中なのだろう、生徒が校庭を走っているいつもと変わらない光景。
窓のせいで声は小さいが、それでも聞こえる声は実に楽し気で平和な日常を映していた。
だが……確実にこの光景は変わる。
何名かの生徒はこの日常風景から切り取られ、その存在が無かった事にされてしまうのだ。
「……今年は、我が校が選ばれてしまったのか……!」
強く窓枠を掴み、その手は微かにだが震えていた。
自分にはどうする事も出来ないと。
後悔、怒り、悲しみ……それらの感情が入り混じった悲痛な声で、男は誰に言うでもなく呟いた───。
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