二章

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月夜の出る空の下、風を斬る音が辺り一面に広がり続ける。 国司家の庭では、額に汗を輝かせながら信濃が半刻以上、木刀を振り続けていた。 邪念を蹴散らすように黙々と素振りをするその様はいつもの清々しい信濃の姿ではなく。 どこか荒々しいその姿に、縁側を横切り厠へ向かおうとした父は思わず足を止めた。 「精神統一ではなく、邪念が入っておるな、剣先がぶれているだろ……一寸の迷いもない振り方が出来て初めて素振りといえる……止めておけ」 「父上、お言葉有り難きものですが、今はお言葉添え、いらぬものと存じ上げております」 初めて、信濃が父に逆らいを見せたのがこの時初めての事で。 父はそれこそはじめは、言葉を詰まらせたが直ぐに何かを思い出したようで、鋭い視線を信濃にぶつけた。 「女狐につままれたか」 「……女狐??……なんですかそれは、狐とはあの狐のことを父上は仰っているのですか??」 「馬鹿を言え、狐は狐でも、人を騙す狐よ……捕まれば逃がしはせぬのを、女狐……喩え文句とでも言っておく」 「……はぁ」 それだけ発せば、父は廊下を歩いて行ったが信濃はと云うと、暫く首を傾げていた。 (父上は何が言いたかったんだ……)
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