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「藤の花、お好きなんですか??」
「……えっ、いえ……」
カランコロンと鳴る下駄の音色。
先程考えていた事も頭から吹き飛んでしまう信濃は、思わず目を逸らした。
藤の花が咲き乱れる家垣、その立派な長屋(勝手口)から出てきた女の姿に信濃は目を逸らしたのだ。
不審者と罵倒されるのではないかと思わずしどろもどろになってしまう信濃の思いとは裏腹、女は上品に笑いながら小首を傾げていた。
「藤の花……私は好きなんです……春がやってきたという感じがして……それに、いつもお国(長州)のために勉学に勤しまれて……お疲れ様です、国司さん」
(……えっ??)
サワサワと揺れる藤の花――。
信濃は徐々に目を見開いた。
カランコロンと鳴る下駄の音色。
名前を知っていたから、その驚きも確かにあった。
だが、一番は彼女の声が透き通るように綺麗で、微笑んだ姿がこの世のものとは思えぬほど美しかったから――。
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