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眼鏡がそれで壊れた事は、言うまでもない。
着ぐるみの尾に一つだけ付けられていた白い風船 ───産み落とした卵のイメージだったそうだ……─── が、飛び降りている間に外れたらしく、虚しく萎んで俺の前に落ちた。
それに気付き顔を上げると、側で尻餅をついて呆気に取られた表情をしたのどかを見付けた。
……あの時、のどかには羽が擦っただけだったらしいが、何度謝った事か。
でものどかから返って来た反応は、腹を抱えた大笑いだった。
それが縁となり、俺たちはその後付き合い始め、今に至る。
そして今でもあの時の事を、こうして笑って話してくれる。
いい思い出として。
「……あの時、一也に感謝したんだ」
ふと、少し遠い目をして、のどかが呟いた。
「え?」
──感謝?
初めて知らされる言葉に、俺は理解出来ず戸惑った。
すると、のどかが続ける。
「本だけの世界から連れ出してくれたから」
と。
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