救済の花たち

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救済の花たち

それから、三週間ほど、真祐美は"アンケート机の中"の事をあえて思い出さないようにした。そして、家事と育児に専念した。 『お金を払え…』という"手紙"は彼女を悩ませたが、対応しなければ、気にならない。 元来、金銭を要求する気などさらさら無い。誰かもわからぬ相手が、勘違いしただけである。 それだけに、不気味さを感じる。 また、"詰め将棋"の"出題者"も謎なままだった。 しかし、一週間もすれば、真祐美は以前の"日常"に追われだした。 二週間目に入ると、"詰め将棋"の事など忘れ始めていた。 いつものスーパーで買い物し、出入口付近でたむろする若者を見ても、"ガリ"の姿は脳裡に浮かばなかった。 彼と思い込んでいた人物が、彼ではなかった、という事実が真祐美の心を怯えさせた事もあったが、一度気にしなくなれば、それは"日常"に流されて往く。 夜、寝室のベットに入る際、脇の化粧台が気になる事もあった。 引き出しには、受け取った"手紙"が捨てれずに隠してある。 (…しばらく、しばらくは放っておこう…) そう思って、化粧台の反対側に頭を向けて、眠りに入った。 三週間目も終わろうとした水曜の朝食の後、真祐美は晋吾が読んでそのまま残していった新聞を片付けようとした。 (…んっ、もう!) 文句を言いたくても、その姿はすでに玄関から消えている。 真祐美は諦めて、広げたままの新聞紙をたたむ。 次は、娘と自分の朝食を用意しなければならない。 これはら晋吾が時折やる"癖"のようなものだった。 出勤時間の間際まで新聞を読む。 そして時刻が迫っていることを知り、そのまま広げ放しで家を出てしまう。 真祐美としては、もう慣れた事で、後から文句も言わないでいた。 ため息と落胆が混ざった腕で広げ放しの新聞紙を手に取る。 と、手にした新聞の内容が目に飛び込んで来る。 晋吾は、スポーツ欄を読みかけていたようだ。 昨日のプロスポーツの結果が、紙の半分以上を占め、下の方に地域のアマチュアスポーツの情報が載る。 真祐美は、スポーツに対した興味の無いが、目線は紙面のさらに端にくぎ付けになった。 そこには、"マス目"が描かれていた。 "将棋盤"だった。 驚いて、掴んだ新聞紙を広げてみら。 スポーツ情報が並ぶ記事の右下に、"将棋名人戦"という見出しで将棋盤が描かれ、駒の動きらしき文字も並んでいた。
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