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そのキッカケが何であったのか?
真祐美は釈然としていない。キッカケなどないではないか?と言われてしまえば、その通りかもしれない。
それでも一つの起因を言えば、今年の三月に家族三人で出かけた遊園地での夫、晋吾の一言だった。
「最近、服とか買わなくなったね。…昔はもっと可愛かったような気がしたけどなぁ。…老けたなぁ」
その時は、「うるさいわねぇ」と苦笑いで返し、じゃれついて来る美由希をあやしていた。並んでいるゴーカートの列には家族連れが多い。家族連れの子供は、皆、親に甘えている。
真祐美は、美由希の相手をしながら、自分の格好を改めて見つめ直す。
何年前に買ったのか、もう忘れてしまったジーンズと量販店で購入した淡い青色のセーターに、ショッピングモールで安売りしていたハイネックの黒のジャケットを合わしていたが、ここ数年のお決まりの外出スタイルだった。
言い訳を言えば、特にこの二年、真祐美は子育てとその他の事で忙しかった。
一昨年まで、美由希はまだ幼稚園。その送迎で大変だった。
昨年、美由希は小学校に上がってが、真祐美は今度は学年PTA の会計に選ばれてしまった。何かにつけて学校に呼ばれ、行事にも参加。おろそかにできなかったが、おかげで自分の時間は大幅に減ってしまった。だから、とその時、言い訳したかったが、晋吾の落胆の声があまりにも真に迫っていて、それ以上言葉を続ける事ができなかった。
帰宅し、夕飯を用意し、いつもと変わらない日常に戻る。
真祐美は、食べ終わった食器をお湯を張ったシンクに滑りこませながら晋吾に確認した。
「ねぇ?、私ってもうオバサン?」
リビングのソファーに寝そべりながら、テレビのバラエティー番組を見ていた晋吾が「うあ?」と間の抜けた声で反応する。
「昼間、私に言ったでしょ?、『昔に比べ…て』って。あれ、本当にそう思ったの?」
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