2四金

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さらに、よく見れば字体も違う。 この『お金を…』の文字はか細く、消え去りそうな文字だ。 シャープペンで書かれたようだ。 対して、真祐美が先日手にしたあの"詰め将棋"の文字は、それより幾分濃く、線の幅が広い。 鉛筆で書かれたのではなかろうか。 それに今回の手紙の文字には、見覚えがある。 真祐美が初めて、この図書館で"手紙"を受け取った時と、その後、中学校の裏へ来て欲しい、と救済を要請された際の"手紙"の文字と似ている。 いや、同一だった。 思い直せば、前回の"問題"の手紙の文字とは、明らかに違う。 つまり、あの"詰め将棋問題"は、以前の"文通相手"(ガリ)とは違う"誰か"が書いたもの、ていう事になる。 真祐美は、身震いをした。 それはつまり、今まで、あのゴミ捨て場の"ガリ"と思っていた"詰め将棋"の相手は、彼ではなかったのだ。 将棋部の彼なら、『2四金』の文字に対し、『お金を…』とは思わないだろう。 では、真祐美は誰と文通していたのか。 誰に『2四金』と答えたのか。 そして、この人物は何故、アンケート机が"手紙"の渡し場と分かったのか。 誰なのか。 真祐美を知っているのか。 恐怖が背筋を走った。 思わず駐輪場から、辺りを見渡す。 図書館を含む"交流センター"は変わらず鈍い色をしていて、二階や、三階の廊下を歩く職員がまばらに見えた。 さらに、もう一つわからないことがある。 では、あの"詰め将棋"の問題をアンケート机に入れたのは誰なのか? やはり、"ガリ"なのか。 …わからない。 真祐美は、膨れ出した謎と恐怖を止めることができず、急いで自転車の鍵を外した。 この場をすぐに離れたくなったのだ。
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