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それから暫く作業を続けていたが、視界の端にあったコーヒーカップが無くなっているのに気付いた。
そしてジャーと水音が聴こえる方へ目をやると、そこにはコーヒーを入れているのであろう男の後ろ姿がある。
こちらが「あ」と言う前に相手は振り向く。
手に持つブラックコーヒーを少し口につければ、何とも言えない苦い顔をして、こちらへそれを持って来た。
「にっがー」
「…ありがと」
手渡されたそれを受け取って喉へ流し込めば、コーヒー特有の香ばしい匂いが鼻をさす。
パソコンへ向き直り、コーヒーカップをなるべくそれから離れた所に置くと、唇に柔らかいものが触れた。
そしてその柔らかいものが離れた後、目の前には無精髭の似合う顔があり、先程のものが唇だったと分かった。
「ようこんな苦いの飲んでるわ」
「じゃあキスすんなよ」
ははっと笑いながら、相手は傍にあった雑誌を手に取り、ソファーの所へ行ってしまった。
煙草の匂いだけを残して。
コーヒーの香ばしい匂いではなく、残された微かな煙草の匂いに心地好さを感じながら、またパソコンとの睨めっこを再開する。
「んーあかん、頭痛い」
窓からは時たま心地良い風が吹き込み、カーテンと前髪はそれにつられて揺れている。
「じゃあセックスしよか」
「なんでやねん」
今日もしあわせだ。
end
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