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天候に恵まれた空は青く、今日は絶好の仕事日和だった。しかし、村の住民達は仕事道具も持たず全員同じ場所に集まっている。 住民達は何かを待っている様子で、ざわざわとした雰囲気が感じられた。 正面には二階建ての小さな家があり、皆時々ではあるがその建物の屋上に目を向ける。 1人の少年が突然、屋上を指差す。 「来た!」 少年の声と同じタイミングで、先程まで誰も居なかった屋上に1人の青年が現れた。 まだ少年のあどけなさを残す青年は、1歩前へ歩みを進める。 青年はその細い体に鎧を纏い、腰には剣を差していた。顔は、剣士たる風貌に負けぬようキッとした表情をする。 住民達はというと、先程までのざわざわとした雰囲気は止み、屋上の剣士を静かに見ていた。 剣士は首を少し左右に振り、辺りを見た後待っている住民達に対して口を開く。 「君たちに鞘はあるか?」 一時は静かだった住民達も、剣士の意味不明な発言に戸惑い、またざわざわとした雰囲気に戻った。 「こんなこと言っても、意味は無いだろうな……」 遠くを眺めながら、誰にも聞き取れない小さな声で呟く。 剣士は戸惑っている住民達をしばらく見ると、突然右手を天高く掲げた。 「あなた達に見せよう――」 剣士はゆっくりと五本の指を握る。 「これが【鞘】に納められている力だ!」 手のひらには眩いばかりの光が収束し、そこには剣が現れた。 この光景を目の当たりにした住民達の視線は剣に釘付けとなり、辺りは静まり返る。 「オレは……この剣で……魔獣を……倒したあああ!」 剣士の咆哮のような叫びに一刻は静まり返っていた住民達だったが、1人、また1人と声を荒らげて歓喜の声をあげていった。
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