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「あ、何で俺があそこにいるのわかったんだ?」
蒼真先輩が思い出したように言った。
「先輩が見えたんで」
俺が指差したのは、扉のすぐ横の白いガラス。
「よく俺ってわかったなあ。外からだと、中ははっきり見えなかったのに」
(うん…はっきりは見えない……でも)
「蒼真先輩ならシルエットでわかりますよ」
(はっきり見えなくても……わかるんです)
蒼真先輩は頭を触ったり体をひねったり、可愛らしく動いたりしながらアチコチ自分自身を見ていた。
俺はその様子があまりに微笑ましくて『クククッ』と笑っていた。
蒼真先輩といると飽きない。
(ムーンといた時に似ている……)
俺はハッとして…気づいてしまった。
(蒼真先輩ってムーンに似ているんだ!“どこ”かはわからないが、似ている……だから初めて会った時から、もっと会いたくなったんだ…だからこんなにも、一緒にいて安心するのか…)
嬉しい発見だった……
「今日はゆっくり聞いていただだけるんですか?」
俺は椅子に座って聞いてみると、『1時間くらいならあるが短いか』と聞いてくれた。
俺にとっては、どんなに短くても価値ある時間にかわりはない。
「いえ…大丈夫ですよ。何か聞きたい曲とかありますか?あ、俺の聞いたことあるのなら弾けますけど、聞いたことない曲は無理ですよ」
「聞いただけで…弾けるのかよ?」
「はい」
何故こんなに不思議がっているのか、わからなかった。
「へえ…すげえなあ。なあなあ、それって何回くらい聞いたら覚えられるんだよ?」
「は?一回聞けば俺の中に入ってしまいます」
「ふーん。えっ…?い、一回?たった一回!」
「はあ、まあ」
自分では、こんなの当たり前だと思っていたから、蒼真先輩の驚きぶりに俺自身が驚いた。
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