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俺…成瀬 昴には、特別な存在の犬“ムーン”がいた。
俺が生まれた時に、同じ頃生まれたポメラニアンを祖父が貰ってきたらしい。
愛らしく、ちょっとドジで、頭もよく、優しいムーンに…
俺はペット以上…親友とも言うべき感情を持っていた。
しかし、いくら俺がムーンを想っても、犬の寿命は人間に比べると…はるかに短い。
今年に入り、とても寒い朝ー
ムーンは俺の布団の中で冷たくなっていた…
俺は涙がこぼれ落ちて…
止まらなかった。
無気力な日々が続き、なんとか高校には入学したものの、相変わらず力が入らない…
家に帰っても、ムーンはいない。
大好きなピアノも、音が…渇いている。
気分転換に、学校のピアノを借りることにした。
家よりムーンを思い出さないで弾けるかもと期待したから…
しかし、実際は、期待はずれで思うようにいかない歯がゆさと、心の支えがない空白感に、1人悩んでいた。
もう一度、この曲を最初から弾いてみようと弾き始めて間もなく、あの人に出逢えた…。
最初は『何だ?この人』って見ていたが、あまりに可愛らしくて思わず笑ってしまった。
その人が去った後、七色のストラップが落ちていた。
(今の人のかもしれない…)
俺は、明日にでも渡そうとハンカチに包んだ。
本当は、また会いたかったんだと思う…
あの人を知りたかったんだと
その直後から、不思議なことに俺の音が戻った。
嬉しくて…たまらなかった。
次の日、逸る気持ちを押さえながら、学校の近くで待っていた。
ここを通るかどうかもわからないのに…
しばらくすると、2年生のネクタイをした小柄な人と、背の高い人が歩いてきた。
(あの人だ…)
俺は迷わず挨拶をした。
その人は何故か困惑した様子だったが、ストラップを見せるととても喜んでくれた。
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