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蒼真先輩と出会ってから数日後ーーー
朝からなんとなく、いつもより少し俺は気分が良かった。
「おはよう、成瀬ぇ。あれ?何か良いことあったのか?」
後から登校してきた、クラスメートの成田亜澄(なりた あずみ)が、俺の顔を見て挨拶すると、不思議そうに言ってきた。
成田は、高校で一緒になった男で、たまたま出席番号が前だと言うだけの出会いだ。
コイツはバスケ部で、背が俺より少し高めだが『俺、まだまだ成長期だし、せめて185は欲しいよなあ。そうしたら海司先輩と並んだって絵になるだろうしさあ』と、おめでたい夢を描いて毎日お昼には牛乳をゴクゴク飲んでいる。
コイツが明けても暮れても嬉しそうに語る『海司先輩』とやらは誰かは知らないが、たまたま前後なだけなのに、何かと俺にかまいたがるコイツが、入学当初から非常にうるさく鬱陶しくてたまらなかった…
しかし、慣れとは恐ろしいもので、数日も経てば忙しく顔を変化させたりウザイくらい手や体を使って語るコイツに、奇妙なことに慣れてきたようで『無視するとうるさく面倒くさいから、少しくらいなら話をしてやってもいいかな』とも思えてきたところだった。
「別に…」
そうは思っていても、特に話することないので、俺はいつものように手短に答えた。
「そうか?何かいつもと違うけどなあ」
自分の席にわざわざ後ろ向きに座り、俺の顔を覗き込んだ。
「気安く人の顔をジロジロ見るな」
あまりにじっくり見てくるので、少しキツく言ってやった。
「あ~ぁ」
成田は何かに気づいたように“ポンッ”と手を打って、ニコッと笑った。
「今日は怖い顔してねえんだ。おまえさ、い~っつもこんな面してるからさ」
左右の人差し指を自分の眉毛にあて、爪の先を下げて目を細めて言った。
「そんな顔はしてない」
(いつもながら、失礼なヤツだ)
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