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前田 「あなたにわかりますか?」
小さな背中を震わせた声が工場内に響いた。あたりの時間を停める。
前田 「あなたに・・・・・・・」
警部補 「私も・・・・・・・元ヤンキーだったんだ。」
前田の震えが少し静まる。
高橋 「ある警官が教えてくれたんだ。」
高橋 「私の家は・・・・厳しかった。門限なんて当たり前。全てが規則ずくめの生活だった。軍隊や警察などそれ以上の・・・・」
高橋は独白する。小さな背中のみを見つめる。
高橋 「そんな生活に耐えられなくてグレたんだ。私は・・・・・。夜遊びや喧嘩など日常茶飯事の世界に飛び込んだ。」
「一回、深夜に町を一人で歩いていたら警官に見つかったんだよ。」
「あん時はもう終わったっと思ったよ。パクられるってな。」
「だが、あの警官は違った。私の話を聞いた。」
「私の話を聞いて、言ってくれたんです。”縛られた日常でも、それから解放される日は必ずある。なんだったら警官にでもなってみるか?規則だらけだが
お前んちよりも遥かに、楽だぞ。”」
「その翌日・・・・その警官は殉職した。」
「踏み切りに飛び込んだ自殺志願者を救うために、一身で、その人を駅のホームの隙間に押しこんで助けて自分は電車に撥ねられた。」
「私は思ったよ。勝手に死なせておけばいいものを・・・・・。」
「でもわかったよ。命ってのはどんなヤツがもってても命だ。だから消すなんてこと許されねえんだ。」
前田の背中が小刻みにまた違った震えをし始める。
警部補 「みなみちゃんの参考書は手垢にまみれてボロボロで、角っこなんか磨り減ってた。マジだったんだよ」
警部補 「生きて、・・・・・きれいに生きていけ。」
前田はナイフを落とし、膝から崩れ落ちた。
高橋はコートを彼女にかぶせてそのまま抱きしめた。
二人はそのまま動かなかった。
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