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~私の中の黒澤という男~
黒澤秀明…、警視庁の警部で父の友人、口は悪いが、お節介焼きな性格。
私が黒澤について知っているのは、たったそれだけ。
他の事を聞いた事はないし…、正直あまり関わりたくない相手だった。
父の事件が解決したら、2度と会うことは無いと思っていたし、
私もそれでいいと思っていた…、そんな相手、だったのに…。
私が…、黒澤の妹になって、一緒に暮らす…?
「どうして…、私にそこまでしてくれるの?」
黒澤の真剣な眼差しに、私はただ戸惑うばかり。
「私が父の…、榎本祐一の娘だから?」
「そうじゃない。」
…少しは悩んで欲しかった、まさか即答されるとは。
もし…、友人の娘への同情なら、きっぱり断るつもりだったけど…、
「お前を…、放っておけない。」
黒澤は依然、私を真っ直ぐに見つめ、答えを待っているようだ。
「今すぐ返事を求める気は無いが…、出来るだけ早い方がいい。」
何だろう…?黒澤はどこか、焦っている様にも見える。
私の返事は決まっている…、受けられる筈がない…、のに。
「もう少し…、1人で考える時間を頂戴?」
…なぜ、断らなかったのか、自分でも不思議だ。
私って…、あれ…?
黒澤の事…、嫌いじゃなかったっけ…?
「あぁ、構わない…、じっくり考えろ。
だが、さっきも言ったが返事は出来るだけ、早めに頼む。」
黒澤は、今まで見せた事が無い、柔らかな表情でそう言った。
「今日のところはここで失礼する…。
強要する訳ではないが…、いい返事を期待している。」
それだけを言い残して黒澤は立ち上がり、リビングを後にした。
そうだ…、今日はお世話になったんだから、お見送りくらいしなきゃ…。
そう思って足に力を入れるが、なぜか立ち上がれない。
何で立てないの…?何でそんなに動揺してるの…?
そう思っていると、玄関のドアの閉まる音が聞こえてきた。
私が何も出来ないまま、黒澤は帰ってしまったようだ。
「どうしたんだろう…、私。」
黒澤は嫌いだ…、迷う余地は無いじゃないか。
それなのに…、どうして私は、こんなに動揺してるんだろう…。
了
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