~私の中の黒澤という男~

1/1
前へ
/10ページ
次へ

~私の中の黒澤という男~

黒澤秀明…、警視庁の警部で父の友人、口は悪いが、お節介焼きな性格。 私が黒澤について知っているのは、たったそれだけ。 他の事を聞いた事はないし…、正直あまり関わりたくない相手だった。 父の事件が解決したら、2度と会うことは無いと思っていたし、 私もそれでいいと思っていた…、そんな相手、だったのに…。 私が…、黒澤の妹になって、一緒に暮らす…? 「どうして…、私にそこまでしてくれるの?」 黒澤の真剣な眼差しに、私はただ戸惑うばかり。 「私が父の…、榎本祐一の娘だから?」 「そうじゃない。」 …少しは悩んで欲しかった、まさか即答されるとは。 もし…、友人の娘への同情なら、きっぱり断るつもりだったけど…、 「お前を…、放っておけない。」 黒澤は依然、私を真っ直ぐに見つめ、答えを待っているようだ。 「今すぐ返事を求める気は無いが…、出来るだけ早い方がいい。」 何だろう…?黒澤はどこか、焦っている様にも見える。 私の返事は決まっている…、受けられる筈がない…、のに。 「もう少し…、1人で考える時間を頂戴?」 …なぜ、断らなかったのか、自分でも不思議だ。 私って…、あれ…? 黒澤の事…、嫌いじゃなかったっけ…? 「あぁ、構わない…、じっくり考えろ。 だが、さっきも言ったが返事は出来るだけ、早めに頼む。」 黒澤は、今まで見せた事が無い、柔らかな表情でそう言った。 「今日のところはここで失礼する…。 強要する訳ではないが…、いい返事を期待している。」 それだけを言い残して黒澤は立ち上がり、リビングを後にした。 そうだ…、今日はお世話になったんだから、お見送りくらいしなきゃ…。 そう思って足に力を入れるが、なぜか立ち上がれない。 何で立てないの…?何でそんなに動揺してるの…? そう思っていると、玄関のドアの閉まる音が聞こえてきた。 私が何も出来ないまま、黒澤は帰ってしまったようだ。 「どうしたんだろう…、私。」 黒澤は嫌いだ…、迷う余地は無いじゃないか。 それなのに…、どうして私は、こんなに動揺してるんだろう…。 了
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加