1人が本棚に入れています
本棚に追加
~見えぬ道~
9月11日、17時、自宅リビング。
1人で考えるとは言ったものの、ちっとも頭が回らない。
私は、自宅に奈々子を呼び、相談してみることにした。
「ありがとうね、奈々子。」
奈々子は父の仏壇の前で手を合わせていた。
「…友香里のお父さんなら、何て言うかな?」
父の遺影をぼんやりと眺めながら、奈々子が呟いた。
「友人といっても、どんな関係だったかは聞いてないから、
正直、見当もつかない…、かな。」
黒澤と父…、2人がどんな関係だったのかは、想像し難い。
「私は、いいと思うよ?黒澤刑事の話…。
1人で暮らしていくのは…、あまりいい事だとは思えないもん。」
「それは…、私だって分かってる。
黒澤がいい奴で、実は私も…、そんなに嫌いじゃないって事も…。」
“件を誤認逮捕した刑事”だから、むきになってただけかもしれない。
友人の死に関係があるかも知れない人が目の前にいたら…、
私だって、冷静さを欠いて同じ事をしたかもしれない。
現に…、件を信頼してるって思っていた私も、あの時は少し疑ったくらいだ。
あの時点では、ほとんど件が犯人で決まっていたようなものだったから。
「冷たいようだけど、私にはそれしか言えない。
黒澤刑事がどんな人なのかよく分からないし、
友香里と黒澤刑事がどんな関係かも、分からないから…。」
…この話は、黒澤には利点は一切無く、ただ面倒が増えるだけだ。
けど、私にとっては…、とてもいい話なんだ。
家族が増える、今まで通りここで暮らせる、
黒澤との生活も…、実は悪くないかも、とも思ってる。
「もう1つ、私に言える確かな事は…、」
奈々子が、私の方に振り返って言った。
「黒澤刑事が、本当に友香里の事を思ってるって事。
それは、昨日の黒澤刑事を見てたらはっきり分かった。
きっと、黒澤刑事は友香里の事が本当に好きなんだよ。
だけど、友香里はまだ若いから、気持ちを押し付けたくないと思って…、」
「好きって奈々子…、またそんな事言ってるの?」
「あのね友香里…、今から私が言う事、黒澤刑事には内緒だよ?」
了
最初のコメントを投稿しよう!