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まだ寒さが続く季節。
1人の女が住むマンションに男の影が一つ。その男は躊躇うことなく、慣れた手つきで鍵を開けるとズカズカとある一室に向かう。
「沙恵…」
男が呼ぶともぞもぞとベッドから顔を出すマンションの住民。
彼女は眠たそうに
「帰ってきたんだ…」
微睡む中で一言言った。
そして彼女は抵抗する事無く男に組み敷かれ、これからあるであろうことを受け入れる。
2人は一線を超えた中で割り切った関係。セックスフレンドという仲だ。この関係はもう2年ほどになる。
都内某ライブハウスで出逢った2人はバンドマンとバンギャ。普通はそれだけだが、意気投合した彼女らは何故か割り切った関係を選び、彼…亮(アキラ)はその後大人気バンドのギタリストとなり、彼女…沙恵(サエ)は変わらず大学生だ。
・・・
「中にやっちまったけど大丈夫だよな?」
「…うん」
行為が終わり、亮はそう言うとシャワールームへと部屋を出た。
…正直。
安全日か、そうじゃないかを言ったら後者だ。
何故言えなかったのかはきっとこの関係を崩したくないからだと思う。
本当の事なんてセフレの関係では言えるわけない…
ガチャりと音を立ててドアを開けた亮は身支度を軽く済ませていた。
「またしばらく来れねぇから」
いつの間にかシャワーを浴び、濡れた髪のままベッドに横になる沙恵を撫でながら言う。
「ツアー?」
「まぁ、な。今回はレコーディングもするから」
「そ、頑張ってね」
会話だけなら恋人にも見えただろうが、声色はとこかさめたように冬の冷えた部屋に響いた。結局、沙恵が寝付くまで亮は沙恵についたままだった。
それから数ヶ月。
レコーディングを終えた亮のバンドはツアー期間に入った。
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