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亮が沙恵のマンションに訪ねてから2ヶ月ほど経ち、春休みに入った。そこまで広くないが1LDKという学生には贅沢な部屋を見渡す。
(…早くツアー終わらないか…)
「ッ!!」
突然の吐き気に急いで近くの流しへ行く沙恵。
「…っ。ゲホッ」
(まさか、とは思った。
さすがに2ヶ月近く生理が来ないのはおかしくて…)
口をゆすぎ、パタパタと流れ落ちる涙を少し乱暴に拭いマンションを急いで出て行った。
そんな沙恵が向かった先はドラッグストア。購入品はもちろん妊娠検査薬。
家に帰りすぐに検査。結果はやはり、と言えるもので沙恵は妊娠していた。
数日後。
このままでは良くないし、検査薬が正確とも限らないと病院へ向かった。
「おめでとうございます」
(おめでとうございます…その言葉が酷く重く感じた。
本当なら嬉しいのに、喜べない。)
「ご出産されますか?」
「ご主人様は?」
たった数個の質問が多く感じたときだった。
「ご出産されるか、中絶なさるかはご主人とよく考えてお早めに来てください」
その産婦人科医はとても優しい声と顔で言った。
(ごめんなさい、としか言えない。
亮には秘密。
昔より大きくたくさんの意味で成長した彼には荷物だから。)
病院の帰り、そっとお腹に手を当ててそんなことを考えていた。周りには家族連れが多く感じたのは今の状況だからと流れ落ちそうになる涙を抑えて家路についた。
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