忘却の果ての都

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かつてこの地は、紛れもなく都であった。 毎日何千人もの人々が様々な己の目的の為にこの地を訪れ、何千人もの人々が様々な理由でこの地を賞賛し、何千人もの人々がそれぞれの残念だという思いを呟きながら自らの帰路へとついていった。 何千人もの人々が毎日入れ替わり立ち替わりなわけであるから、都の市場はこの地ではなかなか見かけられないような珍しい果物や美しい綿織物、遠い地方に伝わる伝統的な壷や陶器、絵物語くらいでしか描かれないような奇っ怪な動物などまさにこの世の物が全て手に入ると言われても疑いようの無い程に充満していたのである。 そのように都が活発である為統治者の住まう館も、それに見合う程に豪華絢爛で派手に飾られているのだ。 宮自体は建築された当初のままの質素な石造りではあるが、大きな市場のお陰で世界各地から集まる調度品で簡素な宮はみるみるうちに鮮やかに彩られていくのであった。 灰色の石畳には燃えるようにきめ細かく織り込まれ、赤くどこまでも続くような長い絨毯が敷かれており、床と同じくらいに控えめだった石壁にも宝石や鉱石がふんだんに練り混ぜられている絵の具を使い、国中の芸術家が各々の死力を尽くして描いた広大な大きさの絵画が、何百枚にも渡って飾られていった。 きらびやかさは時が流れるごとに増して行き、統治者の絶対的な権力を示すには十分過ぎる程だ。 統治者が宮を大きくする為に次々と高級な物を仕入れ、それらの加工に様々な人達が従事し、彼がが落とす金で市場は目まぐるしく回転して更に肥大化していく。 最早、この世の栄華を極めたと言っても過言ではないこの都の繁栄は永久に約束されているのだ。 その地に住まう者達どころか、その都の栄華を噂話程度でしか知らない者達でさえそう確信していた。
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