水面の少女

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その日は晴天になりそうであった。 湖から立ち込める濃厚な霧がそう告げている。 雨が降ると水かさが増して湖の近くにある自分の家もが水に沈んでしまうという心配があるが、晴れの天気ならば逆に湖が干上がってくれるかもしれない。 いつまで経っても変わり映えのない景色に、そんな思いを抱いて十数年にもなるが、広大な湖の水かさは増える事も減る事もなく、相も変わらず雄大にその姿を保っているのであった。 まだベッドで横になったまま虚ろな頭でそんな事を考えていたが、いい加減目を覚まさないと踏ん切りがつかずに今日一日中このままベッドの上で過ごすという事になりかねない。 最近寒くなり始めた時期に温い布団に包まれて過ごすというのは非常に魅力的で抗い難い誘惑であったが、一世一代の意を決する事にした。 布団を思いっきり手で吹き飛ばし、隙間風で既に十分冷え切った家の中の空気に自分の体を晒す。 温い温度に慣れきった体は刺激的な冷たさの空気をその身に受けて、一気に体中の眠気が弾け飛んでいった。 この方法は非常に効果的ではあるが、これからもっと寒くなって来ると寒さを本能的に体が拒んでしまう為、布団を飛ばす事が出来ずに昼近くまでその中で過ごしてしまうから困りものである。 だが、こうして今自分は目覚める事が出来たのだからこれはこれで良しとしよう。 そう満足げに思うと、ベッド脇に予め置いておいた水桶の水を使って顔を洗い、完全に眠気とオサラバするのであった。 針で刺すくらいの刺激性を孕んだ冷水であったが、その刺激的な性格のおかげでまだまぶたを下ろそうと必死に頑張っていた眠気は、当初の目的通り今晩辺りまで戻ってくる事はないだろう。
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