水面の少女

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軽めの朝食を摂って一息ついた後は、使い古されたタンスの一番下の引き出しをごそごそと探って今日着る為の服を探す。 まだ自分が幼い頃に背が十分届くだろうという理由で割り当てられたこの最下段の引き出しは、他に使う者がいなくなった今でもエリアスの専用の場所となっている。 本来ならば四段あるこのタンスの上から二段目、そろそろ最上段の引き出しすらも最も使い易く思えるくらいの背丈にはなっているのだが、習慣とは恐ろしいものである。 祖母が亡くなって空になったタンスを使うのが嫌になって、適当に自分の物を突っ込んで使ってみた事が何回かあった。 だが、その度に本来身の丈に合ったその高さのそれらに違和感を覚え、最終的に昔のままの最下段に落ち着いたのである。 そんなエリアスがタンスから取り出したのは、もうあと数週間もすればこの辺り一帯を覆い尽くす雪が早めに積もったと思えてしまう程に白く、清らかな色をしたワンピースだ。 肌寒くなり始めたこの時期に、少なくとも暖かみを感じるような色ではないこの服を選んだ理由は、強いて言えばお気に入りだからである。 祖母がまだ存命の時にどこからか仕入れてきた真っ白な布で作ってくれたこの服は、どことなく祖母の温かみを感じられてもう冬を受け入れる準備に入ったこの空気の中でも十分に着る事が出来るのであった。 それが単なる思い込みではなく、確かな現実であって欲しい。 そんな事を思いながら、エリアスは今朝方に布団を吹き飛ばしたのと同じくらい豪快に頭からすっぽりとワンピースを被ったのである。
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