水面の少女

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それほどまでに大好きだった祖母が亡くなった時、エリアスは不思議と祖母の死に対して思ったほど悲しみを抱く事は無かった。 それは別段エリアスが非情な性格をしているからではなく、祖母の体調が悪くなるよりずっと前から常日頃、まるでエリアスに言い聞かせるように呟いていた言葉のお陰である。 「私達墓守にとって死というのは悲しい事なんじゃない。むしろ自らの責務から解放される、救われるという瞬間なんだよ」 エリアスはこの言葉を最初に聞いた、両親が亡くなったまだ自分が随分幼かった時こそこの言葉を理解出来なかったが、長い間断続的に祖母が話してくれたお陰で何とか祖母が亡くなる前にこの言葉の持つ意味を理解する事が出来たのであった。 だから、祖母の死を迎えたエリアスが少々の悲しみを感じた後に抱いた物は代々続く墓守という職務に対する責任感であった。 だが、祖母の言葉の意味を理解出来たからこそ理解出来ない事も必然的に生じたのも事実である。 墓というのはこの台に置かれている石のように人が死んだ後に死後の世界での安らぎを願い、魂に安息を与える物であり、墓守とは文字を見る限りそれらを守り続けるという職務と考えて問題は無いだろう。 だが、エリアスは先祖代々守り続けてきたはずであるその「墓」をかつて一度たりとも目にした事はない。 このまま知らないままだと、代々続く墓守の仕事を自分で終わりにしてしまう。そう思ったエリアスは幾度と祖母に自らが守るべき物を尋ねたものである。 しかし何回尋ねてみても、祖母は物悲しさとほんの少しの嬉しさを混ぜ合わせたような顔をするばかりで何も話そうとはしてくれなかった。 そんな祖母がこの世を去ったのは、ちょうど季節が一回りしたような、去年の今頃の陽気の時である。
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