涙と出逢い

3/14
前へ
/153ページ
次へ
「もう!やっぱり聞いてない」 頬を膨らまし唇を尖らせるのは彼女、浅原愛美が拗ねた時の癖。 「ごめんごめん。何って?」 「いいよ、大した話じゃないから」 いつもより少し低い声で告げる愛美に、咲良は苦笑いした。 「ごめんね」 「そんな謝らなくていいって。……あ、」 愛美のポケットの中の携帯がブルブルと震える。 それを手に取り、愛美は慣れた手付きで開いた。 「やった、ラッキー♪今日部活無しだ」 「そうなの?珍しいねぇ」 愛美はこの辺りでは強いと有名なバレーボール部に所属しており、放課後や休日は部活三昧だ。 「そだ、咲良は暇?買い物とか行かない?」 因みに咲良は一番楽な帰宅部。 「あ…、今日は行かなきゃならないとこあって」 「えー…っ」 先程より大きく頬を膨らます愛美。 「ほんとにごめんね。また今度」 「…約束だよ?それとお詫びにアイス奢ってね?」 「うん。約束」 咲良がそう言うと、愛美の頬はしゅるしゅると萎んでいった。 「絶対ね。まぁ次の休みはいつになるかわかんないけど」 「うん」 「じゃあ私他の人探してくるよ。また明日!」 そう言い残して走り去って行く愛美に手を振ると、愛美の方も大きく手を振り返してくる。 「…よし。行くかぁ」 愛美が見えなくなると同時に、小さな声で呟いた。 そして咲良は鞄を持ち、ゆっくりと教室を出た。
/153ページ

最初のコメントを投稿しよう!

410人が本棚に入れています
本棚に追加