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ー*ー*ー*ー
向かった先は、咲良の両親が眠る見晴らしのいい丘の上にある墓地。
学校からは歩いて三十分程で着く。
弘瀬家と刻まれた墓に、来る途中に買った色とりどりの花束を置いた。
「お父さん、お母さん…久しぶり。咲良だよ」
手を合わせながらゆっくりと語りかける。
「学校楽しいよ。勉強も頑張ってる。この間のテスト、学年で十番だったんだから」
『偉いね』
『よく頑張ったね』
そんな言葉が返ってくる事は無い。
「もう十年、経つんだね…」
お父さんとお母さんが、居なくなってから。
長かったようで、短かった。
“あの日”のことは鮮明に覚えてる。
「またお母さんのご飯食べたいなぁ…」
食卓にはいつもお母さんの手料理が沢山並んでて。
不格好だけど、美味しかった。
「また剣道教えてよ、お父さん…」
近くにある道場によく遊びに行って。
二人で汗を拭いながら練習するのが、楽しかった。
「…無理だね」
―――わかってる。
わかってるんだよ。
家族で過ごした幸せなあの日々はもう、戻ってこないこと。
お父さんとお母さんには、もう逢えないこと。
…そんな事くらい…。
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