1701人が本棚に入れています
本棚に追加
すると市川さんが持っていた書類を机の上に置き、そしてそこで両手の指を組んで、前に立つ俺を見た。
「……京介、九年間ここを出て、少しは落ち着ちつきましたか?」
「……は?」
突拍子過ぎて、何を問われたのか分からず、眉を寄せた。
「一体、何の事でしょうか?」
と、真意を聞き返す。
すると市川さんは浅く息をつき、こう続けた。
「……まゆらお嬢様に対する、貴方の個人的な感情です」
「──!」
息が止まって、市川さんを真っ直ぐ見ていた目が渇く。
後は表に出さなかったが、……一瞬、動揺してしまった。
すると市川さんが今度は深く、息を吐き出した。
「……自分の立場を、分かっていますよね?」
「……それは、勿論。重々承知しています」
平静を装うが、言葉の端々がぎこちない。
悟られてはいけない事だと自分で再確認したばかりなのに、いきなりつつかれ……これとは。
最初のコメントを投稿しよう!