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「そこで一つ、貴方に口裏合わせをお願いしたいのです」
市川さんが今度は穏やかな口調で言った。
「口裏……?」
「はい。九年前、貴方がこの屋敷を出た際……お嬢様には、貴方がイギリスへ執事の修行に行ったと伝えてあります」
イギリス?
「何故ですか?」
「……言ってしまえば、年頃のお嬢様が、万一、貴方に特別な感情を抱かないための、一つの予防策としてです」
「……」
穏やかな口調ながらも、俺を見る彼の目には力が込められている。
「貴方はSPとなり要人警護において随分活躍したようですが……ここでは、その肩書きは不要でしょう」
「……」
その経験と共に増した強さに、思わずこちらの目を逸らしてしまいそうになった。
「お嬢様は大変賢い方です。その技能が必要になる事に首を突っ込む様な事は、きっとなさいません。
貴方は男としてではなく、執事として冷静な判断をして、お嬢様を護りなさい」
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