彼と桔梗

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「お嬢様、苦しくはございませんか?」 帯を締め終えた五月さんが私に尋ねた。 「大丈夫。五月さんの着付けが上手だから」 「恐れ入ります」 富士城家の一人娘である私も、一通り教養を身に付ける様に言われている。 毎週月、木曜はピアノ。 水曜は茶道。 そして今日、土曜は華道。 小さい頃は他にもやっていたけれど、今はこの三つ。 たまに「このスケジュールで疲れないか」と聞かれたりするけれど、これが普通だったからなぁ……。 何より送迎は全て車でしてくれてたし。 そう言えば小さい頃は、帰りのリムジンでうとうとするのが、気持ちよくて好きだったな。 「失礼致します。お嬢様、そろそろお時間でございます」 扉の開く音と共に、京ちゃんの声が後ろから聞こえた。
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