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お嬢様が見えなくなるまで見送った後、俺は再びリムジンに乗り込んだ。
キーに触れるが、それを回す前に、重いため息が出る。
『最後は、王室主催のパーティーの給仕係の一人としての経験もさせて頂きました』
……か。
咄嗟だったが、ぬけぬけとあんな嘘がよく言えたな、と自嘲してしまう。
……ヤな感じの大人になったな、俺。
シートに背中と後頭部を預け、視点が定まらぬままぼんやりとする。
……頭では分かってる。でも気持ちがスッキリしない。
しかし、何時までもそうしている訳にはいかないと、体勢を整えエンジンを掛け車を発進させた。
屋敷には帰らず、言付かっていた所用を済ませ、再びお嬢様を迎えに行く。
門の前にリムジンを付け懐中時計を見ると、針は丁度いい時間を差していて、
「よし」
という言葉が軽く口をつく。
そして車を降り待っていると、背後から石畳を軽やかに弾く下駄の音が聞こえて来た。
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