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そして勿論、返事は返って来ない。
言い訳になるが、話そう。
「返事は不要です。疑って頂いても結構です。
私の話を聞いて頂けますか?」
ちらりと見たが、彼女の髪が風に煽られるだけ。
「結婚は致しません。この縁談、私もお相手の方も嵌められたんです。市川さんと、彼女の父親に。なので、二人で結託して破断にしようとしていました」
「……」
彼女は膝を抱え俯いたまま、顔を上げない。
でもきっと聞いてくれている。
「しかし、形だけ何度か会う内にどうやらお相手の方に好意を持たれてしまい……。どうにか諦めて貰おうとしていた所、市川さんからお嬢様の耳にも入れられてしまって」
「ばーか」
「え?」
一瞬聞こえた言葉に耳を疑った。
お嬢様から聞こえた端ない言葉。
何度記憶をリプレイしても、海風のせいの聞き間違いではない。
「当たり前じゃない」
そう言い切った彼女が顔を上げてこちらを見た。
「京ちゃんの近くにずっと居たら女子は京ちゃんの事好きになるに決まってるじゃん!主人の私が言うのもアレだけど、京ちゃんいい男なんだから!顔面偏差値高くて、性格良くて、立ち居振る舞いもスマートなんだよ。女子が惚れない要素ないじゃん!」
褒められワードが入ってはいるが、多分一つも褒めてはいない。
そんな早口の中に呆れの入った声。
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